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STARの1冊

第2回宮澤ミシェルさんインタビュー

写真:宮澤ミシェルさん

宮澤ミシェル (みやざわ・みしぇる)

千葉県出身の元サッカー選手。父はフランス、母は日本。千葉県立市原緑高校時代の1981年(当時フランス国籍)国体史上初の外国籍選手として出場。フジタ工業サッカー部(現・湘南ベルマーレ)、東日本JR古河FC(現・ジェフ千葉)。1993年には日本国籍を取得し、1994年に代表入り。現在サッカー解説者。2006年1月から石川FC「ツエーゲン金沢」のスーパーバイザー。

—— どういう傾向の本をお読みになりますか?

ストーリーものより、色々な人の考え方、哲学が書かれたものに興味があります。

僕は、フランス人の父と日本人の母から生まれたハーフなので、小さい時から国籍の問題で悩まされたり、周囲からのプレッシャーを受けたりしてきました。そのせいか、フィクションよりも、人としての生き方に興味があるんですよね。そういう意味では、幼少の時から、どういう風に生きたら良いかとか、人生の生き方に対して問題意識を持っていたのだと思います。

クライスラーを立て直した、リー・アイアコッカ、ヘンリー・フォードの成功哲学などビジネス書など、生きる哲学が感じられるものを良く読んでいました。中村天風、スピリチュアルカウンセラー江原啓之も気になって読むことがあります。

伝記が好きで、その中でも特にしっかりした考えを持った人のものを読むのが好きですね。

サッカー界では、横浜Fマリノス岡田監督、ジェフ千葉のオシム監督が好きなのですが、特にオシム監督は、サッカー監督という仕事の中で、常に選手達に生き方をも教えている感じがするところに魅力を感じます。

そんな彼の言葉を集めた木村元彦「オシムの言葉」(集英社インターナショナル)がすごく好きな本です。

—— 「オシムの言葉」ですね。どのようなところが好きでしたか?

オシム監督は、ジェフ千葉の監督で、若いチームを育て、見事にJリーグの優勝争いをするレベルまで引き上げた監督です。 

そんな彼には、オシム語録というものがあって……。例えば、レーニンが「勉強して勉強して勉強するんだ」といったように、彼は「走って走って走れ」と選手たちに言いました。他にも、「戦争で殺される奴は見たことがあるけれど、サッカーで走って走って死んだ奴は見たことがない。」などと、サッカーの戦術とか指導を超越して、人生に対する教訓みたいな言葉が彼からでてくるんです。彼のサッカーの随所に、人生に対する教訓が出てきます。その言葉が、もうおもしろくてたまらない!

「何も難しいことのない人生より、新しい何かを作っていく、困難なことを乗り越えていく人生の方がいいだろう」と、これは、当時強くなかったジェフ千葉の選手達に、チーム作りに関して彼が言った言葉です。

こういった彼の一言一言に興味が湧いてきますね。

—— オシム監督は、本当に個性的な方ですよね。

オシム監督は、世界の監督としての頂点にいったワールドクラスの監督。知的で数学者への道を進むことも一時考えたそうですが、監督としての道を選んだそうです。チャンピオンズリーグ、ワールドカップにもチームを率い手腕を発揮していて、そんな大監督が日本にきてくれたのには驚きでした。ジェフユナイテッド市原の祖母井強化部長が、たまたまヨーロッパで会った時に、少し失礼にあたるかもしれないがと、勇気を出して彼にオファーを出してみたら、その思いを受け止めてくれたそうです。

今や、サッカーでは、大きなお金が動き、ビジネスの面が大きくなってきています。人気のある選手を使えだとか、違った力が働いてきている。また、サポーターはすぐに勝ち点を求めるし、チームを作る時間もくれない世の中です。そんな事情もあってか、最初にレアルマドリードというビッグクラブからあったオファーも断っていたのに、日本には来てくれた……。
オファーをだしたチームの方が逆に驚いちゃったそうです。

—— どんなサッカーの指導をしたのでしょう?

サポーターを喜ばせるサッカーをして、勝たなきゃだめだと教えたそうです。「まず、走るというレベルが世界においついてない。そこからやらなきゃだめだ。」「若い選手は伸びる。しかしベテランはその考え方に順応できない。だったら、全部出そう。」中西や、チェ・ヨンスなどを育てては出し、育てては出し……。毎年「えっ?この選手が抜けたらどうするのだろう?」と思っても、若手を育てて好成績を残している。そのスタンスがおもしろいですね。いっぱいおもしろい逸話があるのです。

ある若い選手が、ゲームであるミスをした。それを見てすぐ、彼は選手を交代させた。たった空振り一回だった。それで代えるのは早すぎるかもしれないが、今日の彼の精神状態を考えたら、彼自身にもチームにもプラスにならない、と判断したからだという。そして次のゲームには彼は先発でピッチに乗っている。「彼にとって取り戻すためにチャンスが必要だから先発にさせた。自分が認めた選手だから今回はできるはずだ」と彼は言い、それ以来、その選手は、ずっとレギュラーとして活躍しています。

—— 選手がついて行きたくなる監督なのですね。

選手っていうのは、監督の哲学に納得し、その人物を尊敬する、というその二つがないと走り出せない。ジェフ千葉のホームページにもオシム語録があるので是非読んでみてください。

その人間味あふれる人柄に、サッカーを知らない人でも、こういう人が監督をやっているのだなと面白く読めるはずです。

サッカーの監督には、おもしろい人が多くて、指導法もユニーク。名古屋グランパスにいたベンゲル監督は、プレミアリーグを指揮するようになって、女性ファンが増えたそうです。自分のチームの選手にも、相手チームにも、悪口言わない。そういう紳士的なところが、女性にうけ、女性ファンが増えたらしい。それも人物が大事だということですね。ミスをした選手を決して責めない。「あの時、他にこんな方法もあったと思うけど、どうだ?」と選手に自ら気づかせるやり方する。

僕は、そういう人物を感じさせる発言や言葉を聞きたいのです。

—— 「ツエーゲン金沢」のスーパーバイザーに就任されましたね。

石川県からJリーグを目指そうということで、Zweigen 金沢というクラブチームのスーパーバイザーに就任しました。北信越地域リーグの1部のチーム。若いアマチュアの選手、元Jリーグの選手を集めて、きちんと給料は払えないので地元で仕事を紹介し、働きながらサッカーをできる環境を作っていこうとしています。そんな時に出会ったのがこの本です。佐野毅彦・町田光「Jリーグの挑戦とNFLの軌跡」(ベースボールマガジン社)。チームづくり、マネジメントの方法を、この本から教えてもらっています。たとえば、地域でチームを起こしていくのか、あるいはチームを受け入れてくれる地域にいくのか、といったクラブチームをどう作っていくのかの根本的な仕組みが分かる本です。Jリーグ以外にも、米国のNFL、MLBの成功例を紹介しています。実は、今も繰り返し読みながら仕事にあったっています。

—— クラブチームの運営とは?

一般の企業は、生き残りをかけて競争していきますが、サッカーチームはお互いのチームが落ちこぼれないように、助けながら運営していく。一般の社会で起きていることとは違う運営がされています。放映権の分配についても、偏りがないように分配する。相手チームが居なくなるとリーグが成り立っていかなくなるから、選手の年俸にしても人件費の上限があり、お金にまかせてすごい選手をとっちゃったりしないように、運営のルールが決められているのです。たとえば、米国のNBAのドラフト制では、最下位のチームから選手をとっていくなどと、チーム間の戦力に格差がつかないようにしています。

—— 地域の一体感、コミュニティを作るということですね。

地域の誇りをかけて他のチームと戦う。やりたいことは、地域の一体感、そのチームを応援することによって自分たちも地域への情熱をもつことができるようになる。プロチームは子供たちのあこがれであり、地域の誇りでもある。だからクラブチームはスポーツをするだけでなく、見る、支えるという楽しみ方を提供しているのです。そんな、お客さんを競技場に来させるための、アイデアには感心しますね。米国の例、選手の年俸、人件費の割合なども細かくでています。この本で、地域のスポーツコミュニティをゼロから作るロマンをぜひ感じてください。

—— もう一冊、好きな本として、藤原正彦「国家の品格」(新潮社)をあげられていますが。

自分の国を愛すること、国に対する誇りの無さが、現在の日本ではすごく表れてきています。たとえば、個人主義に走ったり、市場主義がでてきて、もともとあった素晴らしい日本文化が忘れられてきている。日本に昔からあった、人を敬う気持ちだとか、情緒を大切にする精神を、欧米では感心して見ていました。日本は金を持っているからということではなく、日本人独特の考え方は、世界からある種の尊敬を集めていた。ところが、戦後の経済成長の過程で、そしてバブルの時に、そんな日本の良さを失ってきてしまった。それは非常に寂しいことであると、そんな内容です。

—— 日本の良さを再認識せよと。

現在日本では、小学校から英語の授業が導入されようとしている。日本語の良さもまともに分かってないのに、なぜ英語を学ぶのかと不思議に思いますね。これは自分のお袋の考えなのですが、アメリカンスクールを否定するわけではないけれど、「日本で英語をどんなに学んでも、英語圏で育った人のようにはならない。ビジネス英語ぐらいであれば、後々勉強して立派に使いこなせている人はいくらでもいる。やはり、小さいときは日本の文化、言葉を学ぶことが大事なのだ。」と教わってきました。そのため、僕は徹底的に日本語を学びました。しかし今のお母さんたちは、英語ができないとだめだとか、競争に遅れてしまうなどばかり……。それはおかしいのではないか。とにかく日本語から始めるべきで、そこから愛することができる国とは何かが分かってくるのではないかと思います。ある意味で、日本にはまだ武士道精神が生きているのではないかと感じますし、欧米のようにサクセスして金持ちになったものが支配していくという図式はたしかにあるけど、日本は根本の部分が違う。日本人は、品格、情緒を大切にしている。お金を持っている人が偉いのではない、品格があるかどうかだと、そういうところを見ているのだと思いました。

—— スポーツも勝ち負けではなく、生活の一部になってきていますね。

スポーツもそうですね。なんで、スポーツが必要か。プロスポーツなんかなくてもいいではないかと、健康のためには、自分で体を動かして満足していれば、それでいいのではないかと思います。でもプロスポーツがないと生活が成り立たない、生活の一部になっているという現実もあるわけです。親が子供を競技場に連れて行って普段とは違った父親の姿を見たり、その時の試合の思い出が競技場で作られたり。もしかしたら、プロ選手を目指していこうという子供がでてくるかもしれない。あこがれの存在がそこにあったり、痛みや挫折を味わったり、それが育成につながるということなのです。

—— 本はどこで探しますか?

ゆっくり本屋を見て回る時間がとれないので、もうだいたい移動の時に、東京駅とか、空港の本屋ですね。それで、移動中に読むことがおおいですね。飛行機で思い出しましたが、機内誌の「Agora」は写真もきれいでおもしろいです。いつも持ち帰ります。今日もバッグに入っています。

本を読むのは、だいたい夜。ベッドでリラックスして読むのが好きですね。海の近い浦安に住んでいるので、時間があるときには車で海に行って、公園のベンチで缶コーヒーを飲みながら本を読む時もあります。これは最高に気持ちいい時間ですね。

読むときはドッグイヤーをつけますね。「本を傷つけるのに……」なんて言われることがありますけど、いい言葉を見つけると印をつけずにいられないんです。

「オシムの言葉—フィールドの向こうに人生が見える」木村元彦(集英社インターナショナル) 「オシムの言葉—フィールドの向こうに人生が見える」木村元彦(集英社インターナショナル)

「Jリーグの挑戦とNFLの軌跡—スポーツ文化の創造とブランド・マネジメント」佐野毅彦、町田光(ベースボールマガジン社)「Jリーグの挑戦とNFLの軌跡—スポーツ文化の創造とブランド・マネジメント」佐野毅彦、町田光(ベースボールマガジン社)

「国家の品格」 藤原正彦(新潮新書) 「国家の品格」 藤原正彦(新潮新書)