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STARの1冊

第7回緒川たまきさんインタビュー

写真:緒川たまきさん

緒川たまき (おがわ・たまき)

映画『PUプ』で女優デビュー、TV・映画・舞台などで活躍。芸名の「たまき」は竹久夢二の妻の名前から。舞台「広島に原爆を落とす日」でゴールデンアロー賞演劇新人賞、映画『SFサムライ・フィクション』で高崎映画祭最優秀助演女優賞を受賞。2007年1月には映画『ユメ十夜』(監督:西川美和ほか)が公開、春にはナイロン100℃(演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ)の舞台に出演予定。

——  今日は、3冊ほどおすすめ本を紹介いただけるということですね。

はい、まず星新一さん「ブランコのむこうで」を。これはショートショートではなくて、長編です。ある日、主人公の少年が自分とそっくりの少年を見かけて、どんな暮らしをしているんだろうと後をついてゆくと、ある家に入っていく。少年も後を追ってその家に入ってみると、まったく別の世界へ入り込んでしまう。そこから現実と混乱し始めるのですが、どうやらその時から人の夢の中に入るようになってしまって……

——  まったく別の世界というと、どんなところなんでしょうか?

主人公である少年の父親の夢の中や、見ず知らずの人が見ている夢の中、それから 誰かが見ている夢が彼のまぶたに映って見えたりもするんです。

——  その夢の中に入って見ていると。

少年は、見ているだけではなくて、その人の夢の世界の登場人物にもなっています。近所の寝たきりの少年の夢の中では少年は王子さまだったり、浪人生で自堕落な生活をしている人の夢のなかでは皇帝だったり……そうやって人の夢の中で、人が抱えている願望とか悩みにふれていく……。時には感傷的になったり、大冒険だったりするんですよ。

——  ファンタジーというか、冒険というか。

語り口は軽やかなので、読みやすいですし、小学生でも手に取りたくなるような本だと思います。 この小説は読んでいる時間が本当に心地いいんです。  

ただ読んで終わるのではなく、ベッドサイドの本棚に置いてたまに読み返すんですね。 何度も読んでいる本ですので内容は分かりきっているんですが、もしかしたらこの話に出てくる少年が「私の夢の中に来てくれるかも」なんて思いながら読むのがまた楽しいです。

——  その次にあげられたのが、夏目漱石「夢十夜」ですね。

高校生2年生の時に読んで、驚いてしまいした。当時私の中で、一大ブームになりました。 夢の中のお話なので、荒唐無稽なお話ばかりなんですが、友人にもうひとり日本文学が好きな人がいて、彼女とこの話題で盛り上がっていましたね。 文中の「ブタになりますがようござんすか」とか言い合って大笑いしていたんですよ。

——  荒唐無稽というと?

夏目漱石といえば、国語の教科書に載っている文豪と思っていたので、こんな小説があるなんて……とまずは驚きでした。漱石の作品といったら、まじめな文学ばかりだと思っていたので、余計にこの作品を読んだ時の衝撃が激しくて。

登場人物のパナマ帽のケンさんとか、「ようござんすか」口調のいなせな姉さん、「私(わたくし)もう死んでしまいます」といったはかなげな妖精ような存在の女性……とキャラの立ち方も気に入っていました。

——  このお話が、オムニバスの映画になるそうですね。

映画「ユメ十夜」は、来年の1月公開のお正月映画第2弾。内容は十話さまざまです。十人の監督が十話のお話をそれぞれ撮られているのですが、市川崑監督、実相寺昭雄監督という巨匠と呼ばれる人から若手の監督に至るまで、今の映画界を代表される方々が揃っています。  私は第九夜に出演させていただいたのですが……自分の夫が戦争で、出征することになって幼い子とお百度参りするお話です。この九話になると急に深い井戸の中に入ったようなシリアスなお話になるんです。  

夢の内容を人に話すことって難しいと思うのですが、こんな風に文章にできるんだという驚きを感じました。第九夜とほかの話との対比もできると思うのですが、「夢って突然こんな気分になることがある」と共感しましたね。  

夢が持っている、辻褄の合わなさとか、起承転結のなさを、こんなに興味深い形で人に読ませることができるなんてすごいことですね。もっと、何十夜も書いて欲しかったと思います。

——  映画化のずっと前、高校時代からの大好きな一冊というわけですね。

私の中では今でもその友人と会った時に、『夢十夜』の話で盛り上がるくらい想い出深い作品です。女優としてその作品に、関われた事にとても感動しました。 今回、映画化される以前に、「自分にとって大切な一冊」として、雑誌で紹介したこともあります。 「今でも読み返す」というレベルではないくらい、私にとっての青春時代の宝物なんです。

——  あとは、「岸田國士全集」の中の作品をあげられていますね。

来年にケラリーノ・サンドロヴィッチさんの劇団「ナイロン100%」の公演に出させていただくことになっているのですが、岸田國士の短編をケラさんがミックスされた作品になるそうです。 それでこの機会に、岸田國士の戯曲を読んだことがなかったので読んでみようと思って読みました。

——  ケラさんから、指定された作品は?

「驟雨」「紙ふうせん」「犬は鎖につなぐべからず」「ぶらんこ」「屋上庭園」「ここに弟あり」「葉櫻」などです。ただ、これから上演までに多少、増えたり減ったりがあるかもしれません。 衣裳も着物ということですのでちょっと楽しみです。

——  そのケラさんのおすすめ以外の作品では?

実は、岸田國士の戯曲集を今回初めて読んだのですが、その中で好きな作品がありました。

「牛山ホテル」という作品で、大正時代の東南アジアにある日本人経営のホテルに暮らす人々のお話です。登場人物の九州の言葉が最初わからなくて最初は苦労しました。でも読んでるうちにだんだんわかるようになりました。リズムで何となくわかるようになるんですね。

——  派手なストーリー展開があるとか?

現地で愛人(妾奉公)と10年近く牛山ホテルで一緒に暮らしていた商社マンが日本に帰ることになって、「お前との関係を整理したい。」と手切れ金を渡して、愛人を父のもとに帰そうとするんです。愛人は愛人で、「金使いの荒い父のもとでは苦労するし、今さら、帰れない」と悩む。でも、昔の女性なのでそれをはっきり主張できない。それを周りの人が心配して世話を焼くというお話。その人々の駆け引きが面白くて。私は「素敵だなー」と感心してしまいました。

今までにも舞台化されているかと思いますが、機会があればぜひ観てみたいですね。

——  本はどうやって探しますか?

好きな作家の本文中とか、あとがきなどです。あと作家の特集本に出てくる作品名をたどっていくと、連鎖的につながっていく感じですね。もう絶版となって手に入らない本は古本屋さんで集めたりしています。

あとは友達や知り合いの人との話で出てきた本とかですね。

——  本屋さんはよくいきますか?

私の場合、大型の本屋さんをハシゴしてやっと気がすむというか、満足します。 本屋さんによって陳列の仕方が違いますので、それを見るのがまた楽しみです。他の店にない本が、並べられていたりしますね。話題本じゃないのに、平積みに並べられていたりすると気になります。

お店によって得意ジャンルとか、その時期によって陳列する本を変えていたりしますよね。季節感とか、流行とか、本屋さんの陳列にヒントを得たいときは、一カ所だけでなく何店かハシゴします。

——  本屋さんの陳列の違いを見るんですね。マニアックですね。

POPはもちろんよく見ますがそれより本屋さんによっては、ある作家のコーナーが設けられていたりして。店員の方の一言が書かれていたりしているのが、とても参考になりますね。最近話題になっていないような本が紹介されていると「どうして?」と惹かれて買ったりしますし。新宿西口から都庁の方に向かうところに小さい本屋さんがあるんですが、店員さんの手書きのPOPがたくさん書いてあって、話題本じゃなくてもレコード屋さん的なノリで紹介されているんです。それがよくて、そういう本屋さんは「また行こう」と思ってしまいますね。

——  「本屋大賞」はご存知ですか?

名前だけは聞いたことはあります。

——  本屋さんが、お客さんに読んでもらいたい本をオススメする。その大賞ということです。

なるほど、それはいいですね。 ちなみに大賞をとった作品以外の、2番目、3番目の作品もわかりますか?

——  「本屋大賞」のホームページをご覧になってください。

ノミネートされた作品も知りたいですね。そういうのって、読みたい本が浮かばないという人に参考になりますよね。いい賞ですね。

「ブランコのむこうで」(上)星新一(大活字) 「ブランコのむこうで」(上)星新一(大活字)

「夢十夜;草枕」夏目漱石(集英社)) 「夢十夜;草枕」夏目漱石(集英社)