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大賞作家湊かなえさんが副賞10万円で購入した本 2009年本屋大賞

『2009年本屋大賞』で大賞を受賞された湊かなえさんが副賞の図書カード10万円分で購入した中身とは!?

2009年本屋大賞 大賞作家 湊かなえさん

購入書籍リスト

『告白』湊かなえ/双葉社 10冊

『のぼうの城』和田竜/小学館 10冊

『ジョーカー・ゲーム』柳広司/角川書店 10冊

『テンペスト』池上永一/角川書店(上)2冊(下)2冊

『ボックス!』百田尚樹/太田出版 4冊

『新世界より』貴志祐介/講談社ノベルス 5冊

『悼む人』天童荒太/文藝春秋 5冊

『モダンタイムス』伊坂幸太郎/講談社 3冊

『ゴールデンスランバー』伊坂幸太郎/新潮社 5冊

『オイアウエ漂流記』荻原浩/新潮社 5冊

計60冊 合計99,761円

本屋大賞のご褒美で買った本〜湊かなえさん

親が言うには、わたしはおねだりを一度もしたことのない子どもだったそうです。満ち足りていたわけではありません。物心ついたときには、欲しいものがあっても口にしてはいけないなあ、と子どもでもわかる環境にわが家が置かれていたからです。欲しいものはたくさんありました。きれいな服に、本やマンガ、おいしいお菓子……。欲しいものをちゃんと自分で買えるように、おとなになったらがんばって働こうと心に誓っていました。就職氷河期のなか、うまく内定を取れたのも、この決意のおかげだと思っています。

ただ、欲しいものは自分で手に入れる、と頑なに誓ってしまったことが災いしたのか、他人からプレゼントされるのがとても苦手でもありました。嬉しいというよりも、お金を使わせて申し訳ないという気持ちが先立ってしまうのです。特に、何でも好きなものを買ってもいいよ、と言われると、頭の中が真っ白になり、欲しいものがあったはずなのに、それが何だったのか思い出せず、どうでもいいものを選んでしまい、後悔するということが、何度もありました。しかし、そういったときも、プレゼントとはそういうもので、本当に欲しいものは自分で買えばいいんだ、と可愛げのない考え方をしていました。

しかし、そんな子どもは、自分で現金収入を得るようになり、欲しいものをある程度自由に買えるようになっても、やはり、欲しいものって何だっただろう? と思ってしまうのです。きれいな服をたくさん着たくてアパレルメーカーに就職したのに、それが仕事になると、休みの日まで着飾るのはしんどいな、と化粧もせずに一日中ジャージで過ごすようになり、服や装飾品をまったく欲しいと思わなくなりました。タイムマシンがあったら、中高生の頃の自分に服を買ってあげたいな、などとお洒落欲がすっかり枯れ果てたようなことを考えていました。そのぶん、本はたくさん読んでいたと思います。休みの日の前日に本を買い、夜通し読むのが、なんともいえず幸せなひとときでした。書店に行くと、読みたい本だらけで、どれを買おうか財布と相談しながら、何冊も手にとって厳選していました。全部買えたら、どんなに幸せだろう、と。

さて、ここまで書くとお気づきになられている方も多いのではないかと思います。

本が好きで、幸運にも作家になることができ、そのうえ、本屋大賞までいただき、副賞の10万円分の図書カードで好きな本を買っていいといわれたのに、何を買えばいいのかわからないのです。しかし、記念になる使い方をしたいと思いました。努力だけでなく、運が大きく作用して手に入ったものは、自分だけで抱え込んではいけないと、常日頃から思っています。次の幸運につながるように、お裾分けをしなければ、と。

購入したい本はたくさんありますが、読みたい本ではなく、作家として仕事をするうえで、読んでおかなければならない、または、読んでおいた方がいい、そういった本のような気がするのです。書評や広告などを見て、これを読みたいな、と思っても、純粋に物語を楽しむためではなく、他の人はどんな作品を書いているのか、それを読んだ人の反応はどうなのか、といったリサーチ的な要素が絶対に自分の中にあると思うのです。そういった仕事目的の本を、副賞の図書カードで買うのはイヤだなと思いました。

タイムマシンがあったら、本が欲しくてたまらなかった頃の自分に、好きなだけ買ってあげたい。一番、本が恋しかったのはいつだろう。考えるまでもなく、青年海外協力隊で2年間、トンガ王国に赴任していたときです。日常会話はトンガ語、仕事では公用語である英語、そんな中で生活していると、日本語が恋しくてたまりませんでした。協力隊員用のドミトリーには日本の小説やマンガがあり、それらをむさぼるように読みました。宮本輝さんの『錦繍』を読みながら、日本語はなんと美しいのだろう、と思ったり、三浦綾子さんの『氷点』を読みながら、人間とはいったいどういう生き物なんだろう、と改めて考えさせられたり。人生において一番、物語の魅力にどっぷりとつかっていた時期だったのではないかと思います。

とにかく、いろいろな本を読みたくてたまりませんでした。ドミトリーには日本の新聞が何日か遅れで届けられていたのですが、そこに載っている書評や広告を見るたびに、読みたい本は増えていきました。鈴木光司さんの『ループ』が出ている、『リング』『らせん』にどんな決着をつけたんだろう。芥川賞に選ばれた花村萬月さんの『ゲルマニウムの夜』とはどんな物語なんだろう。大ブームになっているらしい渡辺淳一さんの『失楽園』をどうにかして読むことはできないだろうか。

日本にいる友人に頼んで届けてもらったときには、表紙を見ただけ、本を手に取っただけで感動しました。ドキドキしました。

そんな気持ちで本を受け取ってくれる人に、プレゼントすることはできないだろうか。それならば、10万円分全部使っても、ちっとも惜しくない。むしろ、自分のために使うよりも、何倍も幸せな気分になれそうだ。記念になるように、本屋大賞に関係のある本を買って、青年海外協力隊に寄贈しよう。

そう決めたものの、毎日が慌ただしく、何もしないまま、半年過ぎてしまいました。そんなある日、JICAに勤務する協力隊時代の友人である土橋さんから、青年海外協力隊事務局に異動になったというメールが届きました。わたしのためかと思いました(わたしはよくこういうものの考え方をします)。

本屋大賞に関係のある本を10万円分、青年海外協力隊に寄贈させてください。

そんな曖昧なメールを送ったにもかかわらず、土橋さんは忙しいのにすぐに対応してくれ、計画表まで作ってくれました。まず、どの国に送るのか。派遣国全部(75カ国)に送るのは難しいので、トンガとその周辺の国々に送らせてもらうことにしました。トンガ、フィジー、キリバス、マーシャル、ミクロネシア、パプアニューギニア、ソロモン、バヌアツ、サモア、パラオ、の10カ国です。次に何を送るのか。本屋大賞の1位から5位までの本を送ることにしました。計算すると、98,490円になり、これはバッチリじゃないかとすぐにまとまりました。本屋大賞は4月に決まったのに、なんで12月? って思われないかな、というわたしのくだらないこだわりも、土橋さんは、クリスマスプレゼントにしたらいいじゃん、とあっけなく解決してくれ、手紙を添えることになりました。

青年海外協力隊事務局の方で贈呈式をしてもらえることになり、前日に、双葉社の担当の平野さんと一緒に買いにいきました。しかし、予定していた本を全部揃えることができませんでした。最終に選ばれた本や、昨年の大賞作と幅を広げ、電卓片手に、各国6冊ずつ送れるように手にとっていたのですが、途中、これは送らないわけにはいかないだろう、と思う本が目に留まりました。荻原浩さんの『オイアウエ漂流記』です。「オイアウエ」とはトンガ人の口癖で、「あらら」とか「まいったな」とか「ええっ!」とか「よっこらしょ」とか様々な使い方をされています。ぜひこれも、と5冊かごに入れました。合計、99,761円。買い物ゲームでニアピン賞を当てたように、「おおっ!」とレジの前で平野さんと拍手をしてしまいました。自分の手元に残る本ではないけれど、60冊一度に本を買うというのは、なんともいえず爽快で、とても楽しかったです。

翌日、青年海外協力隊事務局で机の上に60冊並べたときも、書店の平台のようで、「おおっ!」と感動してしまいました。これらの本が海を渡って届けられるのか、喜んでくれるといいな、と思いました。

図書カード10万円分というすばらしい副賞をいただいたことに、心より感謝しております。残り239円で、新刊『Nのために』を買い(税込み1,470円ですが)、このたびの思いつきを快く実現させてくれた土橋さんにプレゼントしようと思います。

本屋大賞をいただいて、わたしも『告白』も本当に幸せな一年でした。しかし、5年後の代表作を『告白』にしないという誓いも忘れていませんので、これからも、どうぞよろしくお願いします。

最後に、本に添えた手紙の内容を書いて、レポート終了とさせていただきます。

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青年海外協力隊のみなさまへ

MERRY X'MAS and HAPPY NEW YEAR

こんにちは、湊かなえです。わたしは8ー2家政隊員として、2年間、トンガ王国に赴任させていただきました。トンガはキリスト教の国で、日曜日は安息日だったため、よく本を読んでいました。

日本を離れて読む日本の書物は、日本人独特の感情や習慣、季節の移り変わりなどを、改めて気付かせてくれました。

そんな経験を皆様にもしていただきたく、2009年「本屋大賞」の副賞で、「本屋大賞」に入賞した作品を、お世話になりましたトンガ王国とその周辺の国々の協力隊事務所に寄贈させていただきたいと思います。読書の楽しさを、日本の外から再認識していただければ幸いです。

それでは、どうぞおからだに気をつけて、悔いのないようご活躍ください。

2009年 12月吉日